fake-face 




















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フェイク・フェイス at  ………






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 桜木が朝早く、街に行くことになったのは、本当に唐突な話だ。
昔の恩師が危篤だという。見舞いにゆかぬわけにはいかないほど恩を受けた人らしい。確かに、これまでにも何度も言外の尊敬の響きとともに兄が口にするのを聞いた事のなる名の人物であったので、涼は不満すらもらせなかった。
 兄が夜には戻ると行って、慌てて出ていくのを、不満半分、泣き顔半分の思いで見送ったものである。
 久しぶりに、今日はゆっくり店の方にいられることになったのに、兄がいないのでは意味がない。
 自分一人で家の中にいたところで、何だというのだ。
それなら葛葉の館にいるのと、なんら変わりはないのである。
 それでも、夜には帰ってくるというから、待っているつもりでいる。
店には臨時休業の札を出して貰った。
 桜木と彼女の住む家は、敷地の一部が喫茶店になっている。
兄が店主だ。本当に小さな店であり、常連以外に普段、ほとんど客はない。
 臨時休業の札を見ても、中に誰かおらぬかと庭を通って、店の中を覗きにきてくれるような客は……客と言うよりはもう、友の域である。やって来てくれて、問題ない。
 むしろ、そういう客が来て、遊んでくれぬかな、なぞと半ば期待を持って、待ってもいるから、わざわざ休業と書いた店の中にいるのである。兄とおれるはずの時間を奪われた寂しさを、一人で噛みしめているほどつらいことはない。
 本当に、時折……兄さえこの世にいて、笑っていてくれるなら、自分の身すら不要の物と思うことのある彼女なのだ。誰になんと言われようと、この兄至上だけはかわらない。
 幼い頃、命をかけて自分を護ってくれた兄と姉。
 姉はいまだ行方が知れぬが……自分の命は、彼らのためにあると、思い定めて生きてきた十九年なのだから、この思いは、もはや筋金入りと言ってもなまなかな太さではない、瀬戸の大橋のワイヤーもかくあるかというものにまで育っている。
 そんなところに……ふと、風にのって、甘い香りがした。
どこかで嗅いだ事のある香りだ、と、思ったような気がする。
 耳の奥に、鈍い痛みのようなものを覚える。
……反射的に、何かの危険を感じて、鋭く振り返る。
 店の戸が、開いていた。
涼は、目を一瞬、信じられぬとばかり見開き………次に、とろけたように、相好を崩す。
「あ。兄上!」
 信じられないが、そこに居たのは、つい一時間ほど前に店を出たはずの桜木だった。




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