9月13日 「夜雀の顔」



  



  夜雀の顔ができないと、煩悶している様子の繰り人と、本日は工房にて。
 工房では、いま、朱鴉の零と、夜雀が、それぞれ試作の段階であるようです。
  この二体が出来上がらぬ事には、先に進めない。
 毎晩、繰り人はこの二人とにらめっこしておりますが、
  なかなか思うに任せぬようでございますね。

  何をそんなに悩んでいるのかと尋ねてみると、原因は、どうやら夜雀の性格にありそうな。
 「小生意気」な女の子に仕上がらないのだそうで。

  なるほど、色を見れば、繰り人が悩んでいるのはすぐわかります。
 夜雀は、まだ自分の色を決めかねているようですね。
  特に、彼女は最初と最後では明らかに顔の変わる予定であると聞いています。
 それゆえ、まだ繰り人に、まだ思い切れずにいるのではないかと言ってみました。

  繰り人が映すべきなのは、「今」の雀であるはずなのに、
 時間を飛び越えて「未来」の雀まで透かしているから、迷いが色にでているのではないかと。

  それで申しますなら、鴉も、「赤」という過ちようのない特徴のあるからまとまったものの、
 とてもではありませんが、それで良いのかというと、こちらもまだまだ。

  繰り人は唸ったきりでございましたが(苦笑)

 まぁ、しばらくはスケッチブックと色鉛筆で、もう少し二次元上の煩悶をするしかないのでは
 と思います。
  いっそ、先に物語の方を私に語らせて戴ければ、もう少し考えもまとまるのではと思うのです
 が(笑)そこはそれ、繰り人にもプライドがあるのでしょう。

 ☆★☆

  そんなこんな話をしているうち、男を描くのと女を描くのとどちらが楽かという話に。

 繰り人は男の顔を描く方が断然に楽だというのですが、これはやはりアニマとか、アニムスとか
 そのあたりの事に関係してくるのでしょうか。
  心の中に描く、理想の伴侶。
 意識するともせざるとも、それは複雑な脳を持つ生物である人間には、ごく基本的なものであると
 聞いたことがあります。
  出来上がるものが理想を反映するかどうかはどうとして、イメージまでの到達が早い。
 しかし、では女の方で女性を描くのが得意な方はどうなるという話になります。

 それを言うと、繰り人は、女の子は小さい頃、みんな、絵を描くときは女の子を描くと。

 「三角の胴体に丸い頭がついているような絵でもサ。女の子は、たいてい描いてると思うで?
 ちっさい頃。頭の上にカンムリなんかつけて、お姫様、なんてなぁ。うがったら、あれなんかは
 自分の理想の投影ってことになんのかねぇ。男の子はあんまりせぇへんのかもしれんが」

  しませんねぇ。

 「そのかわり、ヒーローごっことかするやろ。子どもの頃って、異性以前に自分を作る段階やん」

  自分を、つくる。

 「うん? 人間も、生まれたときから何もかも出来上がってるわけと違うんとちゃう?(笑)
  みんな、気付かないうちに自分を自分に組み立ててるんやと思うけど? いや、
  そんな風に真面目なふうに見られたら、適当な事言うのも悪い気がしてくるから、やめやめ」

  自分を作る。

  それは我等にもあり得ることですかと、尋ねてみたら、繰り人は笑っただけでした。
 何か、胸の中に、小さないが栗でも放り込まれたような痛みがあります。
  私がよほど複雑な顔をしていたからでしょうか、繰り人は眉間をちょっと曇らせて、私の肩を
 数度、苦い笑みで撫でたものです。

 「ごめんね。大人の人形遊びってのは、実は、あんた達には、罪作りかもしれないねぇ」

  ……なんの。幸せの定義がどこにあるかなど、それこそ「自分」にしかわからぬものですよ。









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