2月18日(金)早朝 京都 路上にて

夜が明けてきました
イサク&涼  
イサク:
 ………。(涼が、身じろぎもせず寒さにただ唇を噛んで堪えている事に気付き、深く、厳しく、目を細める)

(黙ったまま、腕を伸ばし、涼を自分の膝の間に引き寄せ、背中から抱く。涼の体のゾッとするような寒さに、眉を寄せつつ、問いかけるように見上げてきた涼に目をあわせず、口調はまぎれもなく非難のそれ)

 あなたの根性とやらには、頭が下がりますね、まったく。ご覧なさい。本気で夜が明けてきた。冗談じゃない。なにもこんなやり方ばかりが方法ではないでしょうに……狂気の沙汰だ。

涼:
 (歯の根がしばらく合わないながら、 苦笑して)
 だから、付き合うなと、言うておっただろうが。酔狂は承知の上じゃ。

イサク:
 ( 涼の体を、できるだけ腕の中に抱き込もうとしながら)

 あなたは、日常からそうだ!
 朝4時に起きて水垢離。それから朝のおつとめで、終わればそのまま剣術の稽古。朝食を食べて、次は勉強だ。そこから僅かな昼食をとって、夕刻までこれもすべて修行の時間にあてられる。自由な時間は、夕食前のほんのひととき。

 ………私には、あなたが何のためにそれほどにその体を酷使するのか、理解できない。一体、何があなたを縛っているのか……私から見れば、自己犠牲に酔っているふうにさえ見える。

涼:
(イサクの言葉に顔を歪め、首を傾けながら、困惑の笑み)
 兄上の事じゃがの……この寒さで、一つ、思い出したよ。

イサク:
 (桜木の事について聞いたことなどもう忘れていて、思いの外涼の体が温まらないことに、薄く苛立ちの表情を浮かべながら)
 はい?

Date: 2005/02/18

昔な。
涼&イサク  
涼:
 ……昔から兄上は、「特別」じゃった。
「鷹」の名をつぎ、「いずみ」を預かる。我が一族の次の長であったからの。
 だが、兄上の「特別」はもっとべつのところにあったのじゃ。

……誰にも見えぬものが、兄上の目には見えておられた。
 誰にも聞こえぬものが、兄上の耳には聞こえておられた。

兄上はそれで、ときおり、そこにいてもどこか別の世界に浮かんでいるように、遠く透明になってしまわれた。見え、聞こえても理解はできぬ。理解はできんでも、そこに「有る」ものすべての形が、兄上の中には伝わってしまう。誰かが捕まえねば、容易く天にも地にも等しく溶けてしまわれたであろう。

 ……私などでは、遠く及ばぬ。

今思えば、兄上は、身上そのままが、すべて「特別」な方であった。

 兄上自身が、それと気付いておいででなかっただけで、のぅ。

イサク:
 ………。

涼:
 昔のこと。雪深い季節じゃった。私は三人兄弟の末子での。その頃、4つ、兄上は7つ、いまだ行く方が知れぬが、姉上は御年6つであらせられた。
 私の住んでおった村は、何者かに襲われての。焼き払われての。優しかった母上も、父上も、すべて殺された。

イサク:
 (大きく顔を歪めて涼を見下ろす)

涼:
 誰の仕業かは知れぬ。老翁には、探るな、恨むなと強く言いつけられておる。 
 ともかくそのときは、訳もわからずに、ただ、逃げるよりほかなかった。
 あのとき、兄上は、幼かった私を背に負い、姉上の手をひき、ただひたすらに逃げて下さった。
 幾晩も、深い雪の中を、半死半生とはまさにあぁいうことをいうのじゃろうの。兄上は、背におった私を一度も降ろさず、また、姉上の手を一度も離さずに、逃げ続けて下さった。

イサク:
 (ゆっくりと目を細めるが、どこに視線をやっていいのか分からぬ様子。涼の肩口あたりをただジッと見つめる)
Date: 2005/02/18

扉が。
イサク&涼  
涼:
 寒うての。怖ぅての。つらかった。
 兄上の背の上で、何度も夢ばかり見るのじゃ。優しい母上の腕が、私の額をそっと撫で、頬をよせくださるその場面ばかりを……母上の胸に三つ又の刃が突き出るのを、この目でみたくせに、そんな事は忘れて、何度も繰り返しの。

 目を覚ましては泣く私を、しかし、兄上は一度も雪の上におろされなんだ。
 そのとき、たまたま山裾を通っておった老翁の一行が、我等を見つけ、助け、拾い上げてくれるまで、ただの一度も。

 老翁が我等を見いだしたとき、兄上は、私と姉上のみを預けて、ご自分は山に戻られるおつもりであられたらしい。

 我等を護るため、一人、追手のおとりになろうとされたのじゃ。七つの子どもが、そのとき、とてつものぅおそろしい、得体の知れぬ獣のように見えたと、老翁は今でも話すことがある。

 私と姉上を老翁に預けた後の兄上の身は、足下の雪が、たちまち、しゅうと音をたてて弾け出すほどに熱くなっておったと聞くでの。

 幸い、老翁が荒ぶる兄上をうまく封じ、我等三人、見事に追っ手より隠し護ってくれたおかげで、こうして今も生きておるが………兄上は、元来、そういうお方なのかもしれん。
 護るものを持っておられるときにこそ、その身の力をお使いになれる。

イサク:
 ……もう、桜木さんがどんな方なのかはわかりました。だから、ここを離れて、別のとにかく暖まれる場所を探しましょう。
涼さん、あなたは少し休むべきだ。

涼:
 そんな……暇はないのじゃ! 私などよりも、兄上の身のほうがよほど大事!
 私は……私の身は……兄上のもの。
 兄上のものなのじゃ!

イサク:
 (苦々しく唇を噛み何か言おうとしたところで横の引き戸が重々しい音をたてて開く)あ……!
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