京都の一条殿といえば、刀研ぎの間でも有名な達人で、しかも偏屈ものじゃ。
それもそうであろうの、あの弱っちいくせに名刀に目のない刀キチガイの果心堂が、唯一信用して己の刀を研ぎにだすのがこの御仁のところ。
さらに、この御仁、果心堂が人でないことに薄々気付きながらも、むしろ人よりきゃつめのことの方をどうも気に入り、友と思うておるらしいというのじゃから、少々どころではない変人じゃ。
人にも、まぁ、いろんな奴がおるでのぅ。
さてしも、話を聞かせるまでに、まず骨がおれた。
が、まぁ、果心堂の事でとこちらが最初に言ったせいじゃろうの、向こうでもどうでも果心堂に連絡がつかぬことに、ようやく何事か起こったのだと理解したのじゃろう、家の中に通されてからは、下にもおかぬ扱いであったよ。
まぁ、そこまでがいささか寒かったがのぅ……(吐息)
果心堂が最近ここに刀を預けておらぬかどうか、それが知りとうて来たのじゃがの。
すぐにでも見せてもらいたいものを、イサクがどうしても風呂を借り、少し休んでからでないと話などできんと言い張るで、そういう事になってしまったよ。見せて貰えるのは昼以降になりそうじゃ。
ありゃ、男のくせに、ほんに軟弱じゃのぅ。まぁ、付き合わせた義理もあるで、無理をさせぬようにはしてやらねばならんと思うからここは引いたが。
うむ。風呂を借りると、さすがに全身が伸びて心地よかったしの。
あとは、鶯と燕が動いた気配があった。急ぎでうった式鬼らではあるが、十分に働いておるようじゃの。
店のほうに、どなたかお越しになったのかのぅ。
……はよう、兄上をお助けして、店に戻りたいのぅ。
皆と楽しぅ過ごすのじゃ。
あまくてうまいものもたらふく食っての……
そういえば、何を怒っているのかしらんが(最近あの男は怒ってばかりではないか?カルシウムがたらんのじゃ、カルシウムが!)風呂上がり、イサクが、呻いておったぞ。
人間が誰かの所有物になることなどないとかなんとか、の。
ましてや、妹が兄の所有物になることもありえない、なぞとな。
……だからなんじゃというのじゃ?
首を傾げて見せたら、顔を急に赤くして、もういいと怒鳴って顔を背けてしもうた。
さてしも、こちらも、変わった男じゃのぅ……
ほんに、悪い奴では、ないのじゃが(苦笑)
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