涼: ……良い。うまいの、お主。 そうじゃ。そのままで、良い。……うむ。
(あたりをみたす空気が水底に変わったかのように、音が消える。一瞬、驚いて手を引きかけたイサクの手は、握られてもいないのに、涼の掌から離れない)
イサク: (何かが……入ってくる! 皮膚を越えて、あらゆる、ところから!)
涼: これ。緩まぬか。 それでは、根元の異物になってしまう。 皆を驚かせ、迷惑になるぞ。……緩め。
イサク: (緩めと言われても……!)
涼: (苦笑して)良い。では、私が膜を作ろう。誰しも、最初からすぐには根元と一体にはなれぬ。そうできれば、話は早いのじゃがな……
イサク: (何かが……張った。入るのが止まった。この膜は……暖かい)
涼: ……すべてのものはひとしいのじゃ。 イサク。 覚えておくがよい。 おぬしも、川を泳ぐ魚も、空を往く鳥も。 夕べ死にゆく虫も、野辺を覆い尽くす草も。 果てなく溜まる水も。沈黙する土も。宇宙(そら)すらも。 すべてのものは、ひとつの、ひとしく同じものじゃ…… 我等はそれを忘れるが、それは、けして、失われることのない真理。
我等の生は、おそらくはそこへたどりつくがための長い道程じゃ。
生まれ来て、また、戻る……流転の輪の中で、我等はこの根元をあるべき姿とするために、那由多(数のもっとも大きい単位)の過ちを重ね、ゆらぐ。
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