| 涼&イサク
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涼: ぬ……! (部屋につき、床に横たえられ、身を起こそうとして、しかし、適わない。全身を走る痛みに呻いて、歯を食いしばる)
イサク: (涼をゆっくりと腕組みして見下ろし) 動かれない方がいい……下手をすると、命にかかわるかもしれませんよ。
涼: (何が起こっているのかわからない。目で問いかけるようにイサクを見上げるが、イサクはいっそ優しげな表情で見下ろしてくるだけ。目を伏せ、途方に暮れ、長く落胆の息をつく) ………なんということ。この期に及んで私の体は、どうなったのかのぅ……?
イサク: (涼の横に腰掛け、呟き、さとすような口調で話かける)
あなたは……何もかも自分で背負い込みすぎる。もう、そろそろ、楽をしてもいいはず。そういうことでは、ないんですかね?
お兄さんのため、自分が頑張らなければならないと、肩に力が入りすぎているんですよ。なにもかも、一人で背負い込めるわけがないのに。
お兄さんについてだけじゃない。
「オモテ」とかいうものに対しても、命の恩人だという養い親の「老翁」という人に対しても……義理だてをして、毎日、修行とお勤めとやらで忙殺されて、何もかもを我慢して。
あなたは……彼らを捨てて、一人で立ち、この世に認められてしかるべき力がある人だ。重石ばかりの現在の頚木を捨て、自由になりたいと考えたことはないんですか?
お兄さんにしても、私の弟にしてもそうだ。もう、良い年をした大人なんです。行き先を告げずにどこかへ出かけることだってありえる。きっと、そのうち、ふらっと帰ってきて、それで終わりですよ。
あなたがそこまで苦労する必要はどこにもない。
涼:
(目を閉じて、イサクの言葉を、ムッとするの半分、苦笑半分で聞いていたが、応えようとして目を開ける。そこで、自分を覆うように、イサクが床に手をついて見下ろしているのに息をのむ)
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Date: 2005/02/22 |
| イサク&涼
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涼: イサ……ッ
イサク: 私のことが、嫌いですか? こんな風に見下ろされるのは、迷惑なだけ? 葛葉の姫……… あなたは、私が嫌いか? ……本当に?
涼: (絶句して、イサクを見上げ。つと、頬を赤くして、顔を背ける)
イサク: (苦笑して)嫌いではない。むしろ、その逆のはず。 私が……あなたに惹かれている、これほどの思いが、片方だけに働く力のはずがない。
涼: (目を見開いたまま、首のつけねまで真っ赤に染まる)
イサク: (喉の奥から、言葉が溢れるような、しかし、押さえた強さで) ……最初に会った、その時から。あなたとて気がついていたはず。 そして、最近は確信に近いほど……判っていた。あなたは……私のことを思うようになると。
(赤い顔のまま、なにおぅとでも言いたげに眉を寄せる涼に、少し微笑んで、その耳にそそぎこむように囁く)
………なぜなら、毎夜、私の夢路を通って来られるのは、あなただからだ。
涼: (ギョッとした顔になり、赤面の赤の上に、さらに朱を散らす。慌てて言い返そうと、イサクへ向き直る)
イサク: (涼に発言を許さない。恨み、とがめるように逆に涼を見下ろして、視線で征する) ……たかが夢に、これほどに、苦しい思いをさせられるとは。 想像もしませんでしたとも。人であるあなたに、これまで相手にしたどんな魔より、私はてこずらされている。
(たまらなく恥ずかしいらしい、歯がみして、身を小さくすくめる涼。その姿に、さらに追いつめるように、残酷に笑んで)
あなたに触れる……夢の中では、たやすいことなのに、朝目が覚めれば、空床だ。あれほど自由に開いたあなたの体が、どこにもない。それを感じる痛み……肌の感触も、髪の流れる音も、匂いさえ、すべて思い描けるのに、それは夢の中だけの産物で、実物のあなたには届かない。
廊下を行けば、数分たらずのあなたの部屋がすぐそこにある。 それなのに……我ながら、たいした分別だ。苦く襖を睨むばかりで一歩も外へ踏み出せなかった。
何をためらったのか、あなたは逢ったその日から、私のものであったというのに。
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Date: 2005/02/22 |
| 涼&イサク
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涼: (なんと応えて良いかわからず。ただ、喘ぐように) 違う……イサク、それは違うぞ。 私のこの身は、兄上のもの。 唯一、無比の特別な兄上のものじゃ。 まかりまちごうても、お主にくれてやるわけにはゆかぬ。
イサク: (静かに、眉を寄せて) まだ、そんな事を仰るのか。 ………こと、この状況において。 あなたが、どうしてその身を私から護れると? (涼の腕をぐいと床に押しつける。痛みに仰け反る涼。その彼女へ、強く、脅すように)前にも確かに言ったはず! 妹が、兄の所有物になることなど、ありえないと。兄妹は兄妹。 たとえ一生かかったところで、その関係に変化など起こり得ない。 (目を細め、声を絞りだす) あなたは……自分に、そうやって、言葉の呪をかけているだけだ。 優しい「兄上」の広げた傘から抜け出し、一人になるのを、怖がって。
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Date: 2005/02/22 |
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