有坂より連絡なし。あれは存外役にたたん男であることが判明じゃ。
もしあすも何の結果も出せないようなら、「オモテ」のに言うて、一家郎党、路頭に迷わせてやる。
老翁のほうはさすがに様々の情報は届くが、玉石混交じゃ、こちらは多すぎてかえって精査するのが鬱陶しい。
あぁ、もぅ。
やったがの。そりゃ、そこしか今はすがるよすがないでの。
それで、少しはまた判ったこともある……何もないより、やることがある方が、数倍マシじゃがの。
サクラの絵まみれの店の真ん中に朝からずっと座って考えておったが、何も見つけられぬままじゃ。
したが、あの兄上が、どれほど急いでおられたとしても何も私に印を残さずにどこかへ行かれるとはどうしても思えぬのじゃ。
何かある筈……兄上の残された、印がの。
それを見つけるために、少しでも集中したいのに、店におると、またあのお邪魔虫があれこれと首をつっこみにくるしのぅ……
あの男は一体ほんとになんなのじゃ。
邪魔するなら出て行けと大喝すれば、手伝いたいだけとぬけぬけ言うし、では何か手伝うのかと思えば、やれ、いつから巫女になったのか、朝から晩まで女らしい愉しみのない生活などつまらぬと思った事はないかなど、おおよそまぁ関係のない無駄話ばかりだらだらだらだらと……!
うぅ、やめじゃ、やめじゃ、あ奴の事を考え出すと、はらわたが煮えくり返って怒りがおさえられんようになる!
なんとしても……兄上をお助けせねばならぬこのときに。
兄上がおられなければ、私は半身を失ったも同然じゃ。
兄上が戻られなければ、どうしてこの身に生きる意味があろうぞ。
兄上……兄上。
いずくにおわすや?涼の声は届きませぬか。
兄上………。
もう、悪さはいたしませぬ。喧嘩も控えましょう。
「オモテ」といざこざもおこしませぬし、老翁のいいつけもしかと守ります。
果心堂のような弱い妖を苛めて遊ぶのもやめます。
店の手伝いもちゃんとします。
だから、だから。
どうか、お戻り下され。
どうか、ご無事で………!
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