くぅ。次の満月は24日か。
いつまでもこのような状態でおるのは耐えられん。
だが、次の満月までまだあと10日もあるとは。
月が満ちれば、私も兄上を見つける手だてもあろうものを……
しかし、今日、有坂にそれを漏らしたら、ヤツめ、顔色が変わったから、不用意な事は口にせんほうがよかろうな。
「オモテ」は私に好きに呪法を使わせとうないのじゃ。さすがは呪一つ、祭一にも、わざわざ書面と判子で決裁とる連中じゃ。気が長いというか、小さいというか……
さてしも、有坂めはもう警戒しておるで、満月までに、誰ぞ釘を刺しに現れるかもしれん。面倒なことよな。
………したが、月が満ちれば、黙っておってもこの身に力が満ちる。
この世の万物、透かして見通すこともできようものを。
口惜しいぞ、日が悪い。
10日先とは、ちと、長すぎる……!
今日は、瀬蓮と華恋、それにしげにょ殿のところの新しいお子が、遊びに来てくれたで、随分気が紛れた。
みな、一様に兄上の事を案じてくれる。 それをきくと、なにやら胸の奥がじわぁッと熱くなるのじゃ……
嬉しいのぅ……皆が来てくれる。
心を強うもって、気張らねばなるまい。
それに、みな、チヨコレイトをの。
くれたのじゃ。
えへへ。
甘い西洋菓子のなかでも、私はあれが一番好きでのぅ。
アレを食うと、何故じゃろ、幸せな気分になる!
そういえば、兄上も、甘いものはそれだけで人を幸せにするんですと、
よう仰っておったな。
兄上は、それで、茶店など始められたのかのぅ………。
私は夕飯などよう作らんで、皆をどうしてもてなそうかと思っておったら、あの唐変木が思いがけず気を遣いおった。
西洋麺(スパゲッティ)なぞをたんとこしらえてくれたでの。
皆でそれを食うて、思いがけず賑やかで楽しかった!
まるで大家族のようじゃった。
大勢で笑いながらものを食うと、なんだかとても強い者になった気がする。
体でなく、その内側にあるものが、の。
そうじゃ、唐変木といえば、詫びにといって、あやつが自分の秘密とやらを話すのを聞いたが……どうも首を傾げずにおられんわい。
からかわれておるのでなければ、誰にも苦手なものはあるということなのじゃろうかのぅ、ふぅむ……。
まぁ、奴めも、そもは勘違いが発端であったことじゃし、十分、反省しておるようじゃから、そろそろ許してやってもよいかと思うてはおるのじゃがな。
なんとのぅ、あの人をくった顔を見ていると、腹がたってくるのじゃ。
こらまた、どうした事かのう……。
まぁ、あんな奴の事は、二の次、三の次でよかろうがの。
瀬蓮と華恋は、私の事を案じてくれたらしい。
今日は、みきどののお許しがでれば、泊まっていってくれるのじゃと!
嬉しいの……ずっと、寝るときは兄上と一緒だったでの。
一人では、寝る気がせなんだのじゃ。
瀬蓮と華恋がお泊まりしていってくれたら、起きておれるかぎり、三人でなにかして遊べたらよいなぁ。
花札が良いか。カルタが良いか。それとも貝合わせでも持ってくるか?
いろいろ考えて、わくわくしておったら、また唐変木がやってきて、
「トランプしましょう、トランプ」
じゃと。
西洋花札か。ま、それも悪くはないが、お前を入れてやる気はないからの!
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