昨日、葛葉へ出入りしたが運のつきじゃ。
老翁につかまっての。
今日は、一日、祀りを手伝わされたよ。
おかげで体がくたくたじゃ。
あの爺ぃ、自分の体は思うように動かぬで、人使いが荒いにもほどがある。
とまれ、老翁は幼い私や兄上を救ってくれた、命の恩人じゃし、
私にとっては育ての親じゃ。
まぁ、親孝行と思うてつとめるよりほかないの。
老翁は、兄上のことにも骨を砕いてくれておる。
その礼かたがた、それなりの働きはしようものさ。
……したが、気になる事を言っておったの。
若い魔が消える話はあったも、若い魔を集めている魔の話はついぞ流れ来んと。
老翁に隠し事のできるような魔が、この日の本におるとは思えぬ。
なにしろ、人でありながらも齢三千有余歳、あれはあれで人の形をした立派な大妖怪じゃ。
となれば、……魔では、ないのかもしれぬな。
「魔」でなければ、では、「人」か?
人が、魔を集める?
そのようなことが、果たしてあろうかのぅ……?
魔が、喰らうために人を集める話は聞いたことがあっても、人が魔を狩るのでなく集める理由なぞ、前代未聞じゃ。思いつかぬ。
ぬぅ……。
さてしも、屋敷から戻ると、店からおかしな匂いがしておった。
慌てて行けば、イサクめがぼぅっと立っておるでの。
また驚いた。鈍いにもほどがある。あの臭さは尋常ではなかったぞ。 目が回るかと思うた。
あれは、きっと何かおったに違いない。イサクめが鈍いやつで逆に幸いであったのかもしれんな。
何か気付いてしまっておったら、無事にはすまなんだかも知れぬもの。
もしかしたら、兄上の行方を知るものが、再び店に戻っておったのかもしれぬ。それを思うと、悔しいてならんが、とにもかくにも、イサクが無事で良かったのじゃ。
正直、これ以上、誰かに消えられては、こちらが持たんぞよ。
「オモテ」との連絡と、魔に気に入られやすい有坂の護りがわりに、奴のもとに貸してある式鬼、太郎冠者と次郎冠者、どちらか一方を呼び戻し、イサクにつけておいてやった方が良いかもしれんな。
あれは、なんだか危なっかしい奴じゃ。
それに、ガリガリのやせぎすで、ひどく弱っちそうじゃものな。
魔も好んで食いやせんだろうが、玩具がわりに五体千切られかねん。
つけておいてやろうかと言ったら、なんだか苦笑いしておったがの。
私は、そうした方が良いと思うのじゃがのう……
明日、もう一度、話してやるか。
|
|
|