2月17日(木) 涼さま備忘

忙しくなろうぞ


 朝、水垢離をしておったら、これまでそのような時間に起きたためしのないイサクめが、珍しぅ起きてきて、悲鳴をあげて大騒ぎしおるで、ひと騒動じゃ。
 まだ世もあけてきらぬというに、ハタ迷惑極まりなし。
毛唐は気遣いというものに欠けるの。これぞ、伝え聞く、毛唐の個人主義というやつじゃろうか?

 まぁ、何をぎゃあぎゃあ言うておるのかと思えば、私が自棄でもおこしたと思うておったらしい。やれ、

 「水温が何度だと思っているんです」だの、
 (誰がいちいちはかるか、そんなもの)
 「死ぬ気ですか」だの、
 (水垢離程度で死んでたまろうものかよ)
 「信じられない!それはただの自虐行為だ!」だのと、
 (もはや何を言いたいのかもわからんわ……)
わぁわぁわぁわぁと……。

 毎朝欠かさずやってきておることじゃと言ったら、きゃつめ、絶句しおったがの。
 今日は、支度をしておかねばならぬことがたんとある。
しておきたいこともたんとある。そのためにも、精進潔斎だけは、おさおさおこたりのぅ、身を清めて臨まねば。

 まず、これ以降のため、必ず必要となるじゃろう符を、10束程度はまとめて書いておきたいものじゃし、家を囲んで、少々手の込んだ結界も張り直したい(イサクなんぞにとかれんようにな)。

 なにより、店には奇門遁行をしかけておかねば。
 あれがおそらくは一番時間がかかるじゃろうがのぅ……面倒くさい術なのじゃよ、ほんにのぅ。
 しかし、昼すぎには街に向けて出かけたいのじゃ。
向かう先は、魔などにまるで関係のない普通の「人」のところじゃでの。「オモテ」へ出入りするときのような格好では行けぬし、飛んでゆくわけにもゆかぬ。まず、行くだけで手間がかかる。で、話が通るかどうかとなると、それはまた別儀のことじゃ……

 難儀よな。

 私の留守中、店は、瀬蓮と華恋が護ってくれると言うてくれた。
任せていくに、心残りのないよう、万全の護りを期していきたいこともある。時間が許せば、二人にも秘密の護りをひとつ、さらに加えておきたいが………かなうかのぅ。
 
 そんなこんなでコチラが気を張って潔斎に臨んでおるというのに、私が街へ出るつもりじゃと言ったら、イサクがついてくると言うて、きかん。
 あぁ、もぅなんでじゃ? ついてこんでもいいのじゃ。
私一人の方が、身が軽くて良いと、しかし何度言うても聞きおらん。
 あぁ、なんと面倒くさい男なのじゃ、ほんに、もぅッ。

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