朝、水垢離をしておったら、これまでそのような時間に起きたためしのないイサクめが、珍しぅ起きてきて、悲鳴をあげて大騒ぎしおるで、ひと騒動じゃ。
まだ世もあけてきらぬというに、ハタ迷惑極まりなし。
毛唐は気遣いというものに欠けるの。これぞ、伝え聞く、毛唐の個人主義というやつじゃろうか?
まぁ、何をぎゃあぎゃあ言うておるのかと思えば、私が自棄でもおこしたと思うておったらしい。やれ、
「水温が何度だと思っているんです」だの、
(誰がいちいちはかるか、そんなもの)
「死ぬ気ですか」だの、
(水垢離程度で死んでたまろうものかよ)
「信じられない!それはただの自虐行為だ!」だのと、
(もはや何を言いたいのかもわからんわ……)
わぁわぁわぁわぁと……。
毎朝欠かさずやってきておることじゃと言ったら、きゃつめ、絶句しおったがの。
今日は、支度をしておかねばならぬことがたんとある。
しておきたいこともたんとある。そのためにも、精進潔斎だけは、おさおさおこたりのぅ、身を清めて臨まねば。
まず、これ以降のため、必ず必要となるじゃろう符を、10束程度はまとめて書いておきたいものじゃし、家を囲んで、少々手の込んだ結界も張り直したい(イサクなんぞにとかれんようにな)。
なにより、店には奇門遁行をしかけておかねば。
あれがおそらくは一番時間がかかるじゃろうがのぅ……面倒くさい術なのじゃよ、ほんにのぅ。
しかし、昼すぎには街に向けて出かけたいのじゃ。
向かう先は、魔などにまるで関係のない普通の「人」のところじゃでの。「オモテ」へ出入りするときのような格好では行けぬし、飛んでゆくわけにもゆかぬ。まず、行くだけで手間がかかる。で、話が通るかどうかとなると、それはまた別儀のことじゃ……
難儀よな。
私の留守中、店は、瀬蓮と華恋が護ってくれると言うてくれた。
任せていくに、心残りのないよう、万全の護りを期していきたいこともある。時間が許せば、二人にも秘密の護りをひとつ、さらに加えておきたいが………かなうかのぅ。
そんなこんなでコチラが気を張って潔斎に臨んでおるというのに、私が街へ出るつもりじゃと言ったら、イサクがついてくると言うて、きかん。
あぁ、もぅなんでじゃ? ついてこんでもいいのじゃ。
私一人の方が、身が軽くて良いと、しかし何度言うても聞きおらん。
あぁ、なんと面倒くさい男なのじゃ、ほんに、もぅッ。
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