な、何故じゃ。
何があった?
あれほどしっかりと一郎太の気や思いの残っておった刀から、一切の気がぬぐい取られたように失われておる!
そんなわけがあるものか、確かに一条殿のところよりお預かりした
時には、一郎太のまっすぐな気が、息づくように刀の表面を染めておったに。
まるで、息の根をとめられたかのように、刀は、今はただの「物」にもどっておる。
何故じゃ……どういう訳で、そのようなことになる?
朝方、仮眠をとるまでは、しかとそこにあったものがを……!
もしやすると、一郎太になんぞあったか?
いや、ならばむしろ一郎太の身に納まりどころを失った一郎太の気が、よりどころを求めて刀を見つけ、より気配が濃くなるであろう。
ならば………考えられるとすれば、誰かが刀より、「気」を抜き取ってしまったということじゃろう。
有坂に詳しくきけば、きゃつめを襲った賊め、「太郎」「次郎」を、ただ触れるだけで落としたらしい。
私の式鬼を、ただ触れるだけで落とせるような奴がいてたまるものか、有坂は目が醒めていてもどこか夢を食んでおるような顔をしておるでな、きっと賊がなにごとかしたのを見落としたのじゃろうが、思えば、有坂めも、ひどく「気」を失っておったではないか………
では、有坂のことは、私の目を刀より逸らさせるための陽動か。
一夜かかって有坂を助けている間に、賊は同じ一夜をかけて、刀より一郎太の気すべてを抜き去ったというか。
………あぁ、もう、なんでも良い。
兄上への道筋が、これでまた途切れたということだけは間違いないのじゃ。
兄上への………! |
|
|